津地方裁判所 昭和49年(行ウ)7号 判決 1978年9月21日
原告 西井安兵衛
被告 三重県知事
主文
一 原告の別紙目録(一)記載の従前の土地につき、被告が昭和四六年四月二日付で原告に対しなした清算金決定処分中、徴収金一九万一四六四円のうち金一八万一七一四円を超える部分はこれを取消す。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告が原告に対し昭和四六年四月二日付でなした別紙目録(一)及び(二)記載の各従前の土地に対する各換地処分及び各清算金決定処分はこれを取消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 被告は、伊勢都市計画復興土地区画整理事業(以下「本件区画整理事業」という。)の施行者であるところ、昭和四六年四月二日付で原告所有の別紙目録(一)及び(二)記載の各従前の土地(以下それぞれ「従前の土地(一)、(二)」という。)について換地処分及び清算金決定処分を行い、それぞれ同目録(一)及び(二)記載の換地(以下それぞれ「本件換地(一)、(二)」という)及び清算金を原告に通知した(以下換地処分及び清算金決定処分を併せて「本件換地処分」という)。
2 被告は、昭和二四年四月二六日、原告所有の従前の土地(一)、(二)及び伊勢市一志町字下之久保一二一番宅地五八・二四平方メートル(以下「従前の土地(三)」という)の土地に対し一括して第一工区二七番三二三・九六平方メートル(別紙図面(一)(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(イ)の各点を順次直線で結んだ範囲内の土地)を換地予定地(以下換地予定地も「仮換地」という)に指定したが(以下「本件一次仮換地指定処分」という)、昭和三三年一月一一日本件一次仮換地指定処分を変更し、従前の土地(一)に対し第一工区二七番二二六・七七平方メートル(別紙図面(一)(ハ)(ニ)(ホ)(ヌ)(リ)(チ)(ト)(ヘ)(ハ)の各点を順次直線で結んだ範囲内の土地)を、また、従前の土地(二)に対し第一工区八番一四坪(四六・二八平方メートル)をそれぞれ仮換地に指定し(以下「本件仮換地指定処分」という)、更に右仮換地をそのまま本換地として本件換地処分をなしたものである。
(本件換地処分の違法について)
3(一) 本件一次仮換地指定処分の変更は、訴外井戸政信(以下「訴外井戸」という)の個人的利益を図る目的をもつてなされ、右変更後の本件仮換地指定処分の仮換地をそのまま本換地とする本件換地処分も同様の目的の下に行なわれたものであり、土地区画整理事業本来の目的(土地区画整理法一、二条及び公平の原則)に著しく抵触する。即ち、
(二) 原告は当時、従前の土地(一)上の建物を本拠として米穀等主要食糧の製造加工販売業を営んでおり、訴外井戸は私立病院を経営していた。そして、被告は、訴外井戸所有の伊勢市一志町字一志一一一番宅地のうち原告所有の従前の土地(一)に北接する部分(別紙図面(一)(イ)(ロ)(ト)(チ)(リ)(ヌ)(イ)の各点を順次直線で結んだ範囲内の土地、以下「本件係争地」という)三三平方メートル余を当初原告の仮換地に指定しておきながら(本件一次仮換地指定処分)、右指定によると、訴外井戸に対する仮換地の指定が標準減歩率に及ばないこと及び本件係争地上の訴外井戸所有の非戦災建物につき移転補償費が必要であることを理由として右仮換地指定処分の変更により、本件係争地を原告の仮換地から除外し、これを訴外井戸の仮換地に指定した。
(三) しかし、訴外井戸は、従前の土地として同町字上一志一一一番、同所一一二番、同所一一三番の一、同所一一五番の二以上四筆合計一四〇七・一〇平方メートルを所有しており、当初右土地に対し仮換地第一工区二九番二九九坪(九八八・四二平方メートル)の指定を受けたが、後に同四一番三四坪(一一二・三九平方メートル)が加えられたほか前記のとおり本件仮換地指定処分に伴い本件係争地が加わつた。それにより、訴外井戸は標準減歩率(ここに減歩率とは従前の土地と仮換地の地積差の従前の土地地積に対する割合をいう。以下同じ)とされている三割による権利地積九八四・九五平方メートルに対し実に一〇四四・六二平方メートルにのぼる広大な仮換地の指定を受けることになり、その減歩率は標準を大きく下まわる二割五分強であり、不当に大きな利益を受けたのである。
(四) また、前記非戦災建物は、実際には半壊に近い無住の病室と人力車置場であつて、その移転補償費は少額で足りるし、しかもこれは当初の本件一次仮換地指定処分に際し訴外井戸に交付済であつたのであるから、右一次仮換地指定処分のままでも訴外井戸に対する仮換地が標準減歩率に達しないということもないし、また移転補償費の節約になるわけでもないのであつて、本件仮換地指定処分は訴外井戸の個人的利益を図るためになされたことが明らかである。
4(一) 土地区画整理法八九条によれば、換地は「換地及び従前の宅地の位置、地積、水利、土質、利用状況、環境等が照応するように定めなければならない」と定められているが、以下に述べるように本件換地処分は右基準に著しく反する。
即ち、
(二) 原告は、従前の土地(一)一杯に店舗兼住宅を建てここを生活の本拠としているが、日頃敷地に余裕がなく窮屈な思いをしていたところ、当初従前の土地(一)に接続する本件係争地を自己の仮換地に指定されたので、ここにめん類加工品の乾燥場を建てようと考え、被告の出先機関伊勢都市計画復興事務所の了解を得たうえ自己所有の従前の土地(三)外一筆の土地を売却処分して資金を作り建設準備を了したのである。ところが、被告は、訴外井戸の陳情を受けて本件係争地の明渡をためらい、遂に本件仮換地指定処分に至るまでこれを原告に使用させないで終つた。訴外井戸は前記のように広い仮換地の指定を受けているのであるから、前記非戦災建物の用地として三三平方メートル余の土地はいくらでも都合をつけることができるのに反し、原告としては、右乾燥場の建設のため本件係争地はなくてはならぬ土地である。しかるに被告は、本件仮換地指定処分によつてこれを取上げ、これを訴外井戸の仮換地に指定し、原告には本件係争地に代えて従前の土地から四百数十メートルも離れているうえ表通りから一〇〇メートル余も奥に入つた三角形の土地四五・三五平方メートルを従前の土地(二)に対する仮換地として指定し、更に本件換地処分によつて、そのまま本換地としたのであるが、右従前の土地と換地とを比較してみれば、土地区画整理法八九条に規定されている土地の形質等の諸要素は何一つとして照応していない。
(三) また、原告と訴外井戸との減歩率を比較するとき右と同じことがいえる。つまり、訴外井戸所有の従前の土地伊勢市一志町字上一志一一一番、同所一一二番、同所一一三番の一、同所一一五番の二の四筆合計一四〇七・一〇平方メートルに対し現地換地ばかりで一括して同町三二九番一〇六四・七〇平方メートルが換地として与えられ、減歩率は二四・三パーセントである。
しかし、原告の方は従前の土地(一)ないし(三)及び伊勢市一志町字下之久保一二二番宅地五三五・八二平方メートル(以下「従前の土地(四)」という)合計九六七・八〇平方メートルに対し、換地地積合計は六八六・一五平方メートルであり、減歩率は二九・一パーセントに達する。
(四) しかも原告の場合、換地のひとつである本件換地(二)は飛び換地であるのみならず、社会常識上独立して宅地として利用することが不可能というべき過小土地であり、この換地処分の合理性、必要性は到底考えられないものである。被告がこのような無価値に等しい換地を原告に交付したのは、いつにこれにより数字上の減歩率の減少を図り、もつて他との形式的均衡をとろうとしたものである。
5(一) 被告が昭和三一年四月一六日制定した三重県伊勢都市計画復興土地区画整理事業施行規則(以下「施行規則」という)は、従前の宅地の地積の決定方法につき一七条一項で「換地の交付の標準となるべき従前の宅地各筆の地積は、昭和二一年一〇月九日現在(以下「土地台帳締切期日」という)の土地台帳地積により、国有地および準国有地については所管庁の登録台帳(台帳がないときは実測)地積による」と定めている。
(二) 右規定によれば、従前の宅地の実測面積が土地台帳記載の地積(以下「公簿面積」という)より大きい場合において、該土地所有者は公簿面積を標準として換地処分がなされるため、右両面積に差のない場合に比して不当に小さい換地を指定されることになる。しかも、右施行規則中には、公簿面積の訂正を施行者たる三重県知事に対して申請しうる旨の規定がなく、結局、宅地所有者は換地処分により従前の宅地の内、公簿面積を超える部分を収用されたと同一の結果となる。
(三) 原告は、従前の土地(一)宅地二〇九・三八平方メートルに対し、本件換地(一)二一八・四〇平方メートルを指定されたが、従前の土地(一)の実測面積は二一八・四〇平方メートルであつた。従つて、従前の宅地の公簿面積と実測面積の差九・〇二平方メートルについては換地が与えられていないとも言い得るのであつて、この点に関して何らの措置がとられていない限り本件換地処分は違法である。
(四) ところで、最高裁判所昭和三二年一二月二五日判決(民集一一巻一四号二四二三頁)は、前記のように公簿面積と実測面積との差が存する場合には、清算金の算定の際、差積に対する代償を従前の宅地所有者に帰属させる措置を講ずれば、公簿面積を標準とする換地処分も違法でないとする趣旨の判断をしている。しかるに、本件換地処分において、被告の出先機関である伊勢都市計画復興事務所長は、昭和三三年以前から原告所有の従前の土地(一)の実測面積が公簿面積より多いことを知つていたにもかかわらず、清算金決定の際に右のような措置が講じられた形跡はない。
従つて本件換地処分は違法である。
6 また、換地処分に伴なう清算金は、従前の宅地の評定価格と当該宅地に対する換地の評定価格との差額を算出して決定されるのであるが(施行規則二二条)、従前の宅地の評定価格を算定する基準時は、換地処分の際あるいはそれにできる限り近接した時でなければならない。なぜなら、地価が高騰している場合に、右基準時が換地処分の時と異なるときは、従前の宅地所有者は不当な損害を受けることになるからである。
ところが、被告が本件清算金を決定するに際し、算定した従前の宅地の評定価格の基準時は、本件換地処分の時よりはるかにさかのぼつた時点に設定されていたのであり、これによつて原告は従前の土地(一)につき過大な清算金を徴収されたのである。
従つて本件換地処分は違法である。
よつて、原告は被告のなした本件換地処分の取消を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1の事実は認める。
2 同2の事実は認める。但し、第一工区二七番は別紙図面(一)(ヘ)(ホ)(ヌ)(リ)(チ)(ト)(ヘ)の各点を順次直線で結んだ範囲内の土地である。
3 同3(一)及び(四)の各事実は否認する。同3(二)の事実のうち本件係争地を原告に仮換地するのを変更した理由部分は否認し、その余の事実は認める。右理由は昭和二四年六月二四日の土地区画整理事業費大巾節減の閣議決定に従い訴外井戸への補償金を節約するためである。同3(三)の事実のうち、訴外井戸が従前の土地として原告主張の四筆の土地を所有していた点及び原告主張の経緯により本件係争地が訴外井戸に仮換地として指定された点は認め、その余は争う。
4 同4(一)の事実のうち本件換地処分が土地区画整理法八九条の規定する基準に反する点は否認する。同4(二)の事実のうち、原告が本件係争地にめん類加工品の乾燥場を建てようと考えていた点は不知、伊勢都市計画復興事務所の了解を得て原告所有の従前の土地(三)外一筆の土地を売却した点及び被告が訴外井戸の陳情を受けた点は否認し、その余は争う。同4(三)の事実のうち、訴外井戸が原告主張の従前の土地四筆を所有し、右土地に対し伊勢市一志町三二九番一〇六四・七〇平方メートルの土地が換地されたこと、原告が従前の土地四筆を所有していたことは認める。同4(四)のうち、本件換地(二)が飛び換地であることは認め、その余は争う。
5 同5(一)の事実は認める。同5(二)及び(四)は争う。同5(三)の事実のうち、原告が、従前の土地(一)に対し本件換地(一)の指定を受けた点は認め、その余は争う。被告は施行規則に従い昭和二一年一〇月九日現在の土地台帳地積を基準として換地処分を行つたのであり、何ら違法な点はない。
6 同6の事実は争う。
三 被告の主張
1 原告の本訴請求は権利保護の要件を欠いている。
(一) 原告は、昭和三三年に津地方裁判所に対し、被告を相手どり本訴請求と同一の請求原因に基づき本件仮換地指定処分の取消請求訴訟を提起し、津地方裁判所で昭和三三年(行)第四号仮換地変更指定処分無効等確認請求事件として審理された結果、昭和四〇年一一月一八日、右仮換地指定処分を取消す旨の判決が言渡されたものの、その控訴審である名古屋高等裁判所は同年(行コ)第一六号事件として審理し、昭和四二年八月二九日、原判決を取消し原告の請求を棄却する旨の判決を言渡し、原告の上告により最高裁判所は同年(行ツ)第九九号事件として審理し、昭和四七年一二月八日上告棄却の判決を言渡し、原告の請求を棄却した右控訴審判決が確定した。
(二) そして、本件換地処分は前訴の対象となつた仮換地をそのまま本換地として指定したものであり、右仮換地指定処分につき原告の提訴した請求を棄却した確定判決の拘束力が、右仮換地をそのまま移行した本件換地処分の取消を求める本件訴訟に及ぶ結果、本件請求は権利保護の要件を欠くことになるから棄却されるべきものである。
2 本件換地処分は適法である。
原告の生活上及び営業上の本拠である従前の土地(一)については減歩されることなく現地換地をうけて従来からの利用関係をそのまま維持することができたのであり、従前の土地(二)に対する本件換地(二)は原告の生活の本拠地たる一一一番の一から測ると従前の土地(二)とほぼ同じ距離にあるばかりでなく、幹線道路の角地にあり、従前の土地に比して決して不利益な土地ではない。なお、飛び換地は原告の場合のみではなく、数多く実施され、また本件区画整理事業施行地区内において六六・一二平方メートル未満の換地は八〇筆あり、本件換地(二)の地積に近い又はそれ以下の換地は三〇例くらい存する。
更に、訴外井戸は従前伊勢市一志町字上一志一一四番三六・五九平方メートルを所有し、右土地に対し同市一志町三二八番一九・二五平方メートルの換地を受けているが、減歩率の計算は右土地を含めて計算すべきであり、原告主張の訴外井戸の従前の土地及び換地に右土地を含めて計算すると減歩率は二四・九パーセントである。他方、原告の所有していた従前の土地(一)ないし(四)に対する換地(但し、従前の土地(四)は仮換地指定処分後原告から第三者に譲渡されたため換地処分は当該第三者に対してなされた)は合計七二五・一七平方メートルであり、減歩率は二五・〇パーセントとなり、訴外井戸と比較してほとんどかわらない。
3 本件換地処分のうち従前の土地(一)、(二)に対する清算金の算定は次のとおりなされたものである。
(一) 被告は本件区画整理事業における土地評価方法として路線価式評価方法(街路ごとにこれに接する標準地を選定し、その単価地積に対する価格を指数を以つて表したものを当該路線の路線価とし、これを基礎として同一街路に属する他の画地についてその特殊性に基づいて増減する)を採用し、右方法により算定された従前の土地及び換地の評価指数を金額に表示するための指数一個当たりの換算価額(清算単価)について評価員及び土地区画整理審議会の意見を聞いてこれを定めた。なお、右清算単価は本件区画整理事業の概成時(ほぼ完成した時)である昭和三四年九月を基準にして算定した。
(二) 従前の土地(一)について
従前の土地(一)の評価額は次のとおりである。
まず、従前の土地(一)は別紙図面(二)のとおり(イ)及び(ロ)地に区分することができ、その奥行は(イ)地二八・四メートル、(ロ)地二六・八メートル、地積は(イ)地一二三・九五平方メートル、(ロ)地八五・四三平方メートル(なお、この外測量増配分として六・三二平方メートルが加えられる)であり、右宅地の路線価は三〇〇個、一個の価格は一三円と定められている。
従つてその評価額は次の計算により七七万九五四五円となる。
(イ)地 300個×0.921(奥行価格逓減率)×123.95(地積)=34,247個
(ロ)地 300個×0.932(奥行価格逓減率)×85.43(地積)=23,886個
34,247個+23,886個=58,133個
58,133個÷209.38(地積合計)=278個
278個×209.38=58,208個
278個×6.32(測量増)=1,757個
58,208個+1,757個=59,965個
13円×59,965個=779,545円
また、本件換地(一)の評価額は次のとおりである。
本件換地(一)も別紙図面(二)のとおり(イ)及び(ロ)地に区分され、その奥行は(イ)地二八・四メートル、(ロ)地二六・八メートル、その地積は(イ)地一二九・二九平方メートル、(ロ)地八九・一一平方メートル(合計二一八・四〇平方メートル)で路線価は三七〇個と定められている。
従つて、その評価額は次の計算により九七万一〇〇九円となる。
(イ)地 370個×0.921(奥行価格逓減率)×129.29(地積)=44,058個
(ロ)地 370個×0.932(奥行価格逓減率)×89.11(地積)=30,729個
44,058個+30,729個=74,787個
74,787個÷218.4(地積合計)=342個
342個×218.4=74,693個
13円×74,693個=971,009円
よつてその差額一九万一四六四円が徴収金となる。
(三) 従前の土地(二)について
従前の土地(二)の評価額は次のとおりである。
従前の土地(二)の状況は別紙図面(三)のとおりである(但し、奥行三七・四メートル、奥行価格逓減率は〇・九一一である。)
従つてその評価額は次の計算により四四万二一一七円である。
220個(路線価)×0.911×758.42(4筆合計地積)=152,002個
170個(路線価)×0.15(側方路線影響率)×40.28(側方路線影響地積)=1,027個
152,002個+1,027個=153,029個
153,029個÷758.42=202個
なお、登記簿上の地積より3.02%の測量増があつたため
202個×(163.43(223番の地積)×3.02÷100)=996個
202個×163.43(223番の地積)=33,013個
33,013個+996個=34,009個
13円×34,009個=442,117円
また、本件換地(二)の評価額は次のとおりである。
本件換地(二)は別紙図面(四)のとおりC、D及びE地に分けられ、C地の地積三〇・八六平方メートル、奥行四・一メートル、D地の地積九・三七平方メートル、奥行六・六メートル(但し計算上の地積は四九・六〇平方メートル、三〇・八六平方メートルに九・三七平方メートルの二倍を加えた数値)、E地の地積五・一二平方メートル、奥行四・一メートル(但し、計算上は二倍の一〇・二四平方メートル)、傾斜角度七二・三五度となる。
そしてその評価額は次の計算により一一万八四九五円となる。
C地 240個(路線価)×0.757(奥行価格逓減率)×30.86(地積)×0.98(傾斜角度)=5,494個
D地 240個×0.855(奥行価格逓減率)×49.60(地積)×0.98=9,974個
9,974個-5,494個×0.433(三角地逓減率)=1,944個
E地 240個×0.757×10.24(地積)×0.98×0.434(三角地逓減率)=793個
5,494個+1,940個+793個=8,227個
170個(路線価)×0.15(側方路線影響率)×35.63(側方路線影響地積)=908個
8,227個+908個=9,135個
9,135個÷45.35(地積)=201個
201個×45.35(地積)=9,115個
13円×9,115個=118,495円
従つて、その差額三二万三六二二円が交付金となる。
四 被告の主張に対する原告の認否
1 主張1(一)の事実は認める。主張1(二)のうち、本件訴訟が権利保護の利益を欠く点は争う。
2 主張2は争う。
第三証拠<省略>
理由
一 請求原因1の事実及び同2の事実は、本件一次仮換地指定処分のあつた仮換地の範囲を除き、当事者間に争いがない。
二 被告は、原告の本件請求は権利保護の要件を欠く旨主張するので右主張について判断する。
1 原告が本件換地処分に先行した本件仮換地指定処分について被告を相手とし、その無効確認等を求める行政訴訟を提起したが、被告主張の経過を遡つて、昭和四七年一二月八日最高裁判所の判決により原告の敗訴が確定した事実は当事者間に争いがない。
2 ところで、行政事件訴訟の判決にも既判力を肯定すべきであり、行政処分取消訴訟で原告敗訴になつた場合、当該訴訟の対象となつた行政処分が適法であることについて原告は爾後争えなくなるというべきである。しかし、仮換地指定処分と換地処分は前者が後者を予定してなされる点において密接不離の関係にあるけれども、右各処分はあくまで各独立した別個の行政処分であるから、仮換地指定処分につき取消訴訟により適法性が確定しても、当該訴訟の対象となつていなかつた換地処分につき右確定力が及ぶいわれはないといわなければならない。
従つて被告の主張は採用できない。
三 次に、請求原因3について判断する。
1 原告が当時従前の土地(一)上の建物を本拠として米穀等の主要食糧品の製造販売を営んでおり、訴外井戸が私立病院を経営していたこと、被告は本件係争地を一旦原告の仮換地に指定しながら(本件一次換地指定処分)、後に右指定を変更し本件係争地を原告の仮換地から除外し、右係争地を訴外井戸に対する仮換地に指定したこと、訴外井戸が原告主張の四筆の土地を所有していたことは当事者間に争いがない。
2 原告は本件係争地を原告の仮換地から除外したのは、訴外井戸の個人的利益を図る意思でなされたのである旨主張するので右主張につき判断する。
成立に争いのない甲第一ないし第一八号証、同第二三ないし第三五号証、同第四二ないし第五三号証、同第五五ないし第五八号証、乙第二号証、証人西村卓二の証言、原告本人尋問の結果及び検証の結果によれば次の事実が認められる。
(一) 原告は本件一次仮換地指定処分(この範囲は原告の本宅及び店のある一一一番の土地(この部分については現地換地である。)、訴外井戸所有の本件係争地三四・三二平方メートル及び道路敷六二・七平方メートル(別紙図面(一)(ハ)(ニ)(ホ)(ヘ)(ハ)の各点を順次直線で結んだ範囲の土地)である)が行なわれたため、原告は本件係争地が原告所有地となるものと思い、右係争地に工場を建て製めん業を営む計画を考え、その資金を得るため昭和二五年頃従前の土地(三)及び(四)を第三者に売却し、約一九万円の資金を作つた。
(二) 昭和二四年六月二四日「戦災復興都市計画の再検討に関する基本方針」が閣議で決定され、右方針に基づき建設省は実施要領を策定したが、右要領には「換地予定地の未指定又は工事未着手の区域における土地区画の設計は、なるべく在来道路、地下埋蔵物を移設することのないよう工夫し変更する」、「換地予定地の指定を了した区域においても、現地換地等により極力建物の移転に伴う費用の節減を図る」等の要領が指示されていた。
(三) 原告への仮換地の中には前記のとおり道路敷が含まれていたが、右道路敷の下には電らんが埋設されていたため、電々公社から電らんの移転には費用がかかるため民有地にするのはやめるよう要望があり、また前記要領に則り、被告は昭和二五年六月二日原告への仮換地から右道路敷の部分を除外し、その旨原告に通知した。
(四) 本件係争地上には非戦災の井戸病院の建物の一部、病室、車庫等が存在していた。
(五) 被告は、昭和二七年一二月二二日、本件係争地を原告の仮換地から除外し、従前の土地(二)につき過小宅地として清算する旨の変更決定をなし、昭和二八年一月六日付で原告に通知した。
(六) ところが、原告は右変更を不服として本件係争地を自己の仮換地に指定するよう被告に陳情したので、被告において検討した結果、新たに本件換地(二)を従前の土地(二)の仮換地として指定することとし、昭和三三年一月一一日原告にその旨通知した。
以上の各事実が認められ、前記甲第四六ないし第四八号証の各証人の証言記載部分、同第五号証、同第五七号証の原告本人の供述記載部分及び原告本人尋問の結果中右認定に反する部分はいずれもにわかに措信しがたく、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。
そして右各事実を総合すれば、被告は前記閣議決定の方針に従い移転補償費節減のため本件係争地を原告の仮換地から除外し、訴外井戸に対し仮換地として指定したものと認められ、従つて、右仮換地をそのまま本換地として指定した本件換地処分も訴外井戸の個人的利益を目的としているとは認められない。
3 また、原告は訴外井戸の減歩率が三割の標準減歩率に及ばず、訴外井戸を不当に利する旨主張するが、仮に訴外井戸の減歩率が標準減歩率三割に及ばないとしても、後述のとおり原告の減歩率も三割にみたないのであり、右のことから直ちに訴外井戸を不当に利するということはできない。
4 従つて、原告の主張は採用できない。
四 続けて請求原因4について判断する。
1 土地区画整理法八九条一項は換地指定の標準につき換地と従前の宅地とが位置、地積、土質、水利、利用状況、環境等において照応すべき旨を規定しているから、換地処分は右諸点において従前の宅地と大体同一条件にあると認められる宅地を指定することを要するとともに、区画整理の対象とされる各土地相互間においても不公平に失することのないようにすべきであると解される。
2 前述のとおり原告に対する本件換地処分のうち本件換地(一)は原告の所有家屋の敷地であつた従前の土地(一)がそのまま換地されたもの(いわゆる現地換地)であつて、原告は家屋を移転することなく従前どおりその家屋で営業できたのである。また、前記甲第四三号証、検証の結果及び弁論の全趣旨によれば、本件換地(二)は飛び地であるが、幹線道路に面する角地であり、本件換地(一)上にある原告の住居と本件換地(二)との距離は一五〇メートルで従前の土地(二)と原告の住居との距離とほぼ等しいことが認められ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。
3 次に、原告と訴外井戸の減歩率について判断する。
訴外井戸の従前の土地伊勢市一志町字上一志一一一番、同所一一二番、同所一一三番の一、同所一一五番の二合計面積一四〇七・一〇平方メートルに対し、同町三二九番一〇六四・七〇平方メートルが換地になつたこと及び原告が従前の土地(一)ないし(四)を所有していた点は当事者間に争いがない。
成立に争いのない乙第二号証、同第四号証、同第五号証の一・二及び証人中野文男の証言(第一・二回)によれば、原告所有の従前の土地(三)及び(四)につき合計四六一・四二平方メートルの換地がなされた事実が認められ、本件換地(一)・(二)の面積を加えると原告所有の従前の土地(一)ないし(四)合計面積九六七・八平方メートルに対し合計面積七二五・一七平方メートルの換地が指定されたことが認められる。
そうすると訴外井戸の減歩率は二四・三パーセントであり、原告のそれは二五・〇パーセントであることが認められ、双方比較しても原告の減歩率と訴外井戸のそれとは小差にすぎず、著しく不均衡ということはできない。
なお、証人中野文男の証言(第二回)によれば、訴外井戸は右従前の土地以外に伊勢市一志町字上一志一一四番の土地を所有しており、訴外井戸は右土地を昭和三七年一〇月に第三者から買い受ける以前には右土地に借地権を有していた事実が認められる。ところで、本件において減歩率を比較する場合、当初仮換地指定のなされた(本件一次仮換地指定処分)昭和二四年四月二六日以前に所有していた土地につき比較すべきであり、そう解しないと著しく公平を失することになるから、たとえ訴外井戸において借地権を有していても取得時期が昭和二四年以後である一一四番の土地はその対象から除外すべきである。また同じ理由から原告については昭和二五年頃売却した従前の土地(三)及び(四)は加えるべきである。
4 更に、原告は本件換地(二)が独立して利用不可能な過小宅地である旨主張する。なるほど、本件換地(二)が狭小な土地であることは否めないが、前述した位置における四五・三五平方メートルの土地は社会通念上十分利用可能な土地というに妨げないことは明らかである。なお、弁論の全趣旨によれば、本件換地(二)の属する施行地区の第一地区において本件換地(二)程度の狭小で且つ独立した換地は相当数存在することが認められる。
5 以上の事情を総合すると本件換地処分に土地区画整理法八九条一項の規定に違反する違法があるとは認めがたい。
五 請求原因5について判断する。
1 施行規則一七条一項は、換地の標準となるべき従前の宅地各筆の地積は昭和二一年一〇月九日現在の土地台帳地積による旨定められていること及び被告は、従前の土地(一)二〇九・三八平方メートルに対し本件換地(一)二一八・四〇平方メートルを指定した事実については当事者間に争いがない。
2 ところで、前述のとおり本件換地(一)は現地換地であり、証人中野文男の証言(第一ないし第三回)によれば換地はすべて実測でなされたことが認められ、右各事実より原告の従前の土地(一)の実測面積は本件換地(一)の面積である二一八・四〇平方メートルであつたことが認められ、従前の土地(一)の公簿面積は二〇九・三八平方メートルであるのに実測面積はそれより九・〇二平方メートル多い二一八・四〇平方メートルであつたことになる。そして、被告が従前の土地(一)につき公簿面積で換地したことは被告の自認するところであり、また、本件全証拠によるも被告が原告に対し地積訂正の機会を与えた事実は認められない。
3 しかし、右差積は一〇平方メートルにも満たず実測面積との比率も四パーセントにすぎないものである。しかも、証人中野文男(第一ないし第三回)、同西岡卓二の各証言及び弁論の全趣旨によれば、施行地区全体で測量増が三・〇二パーセントあつたところから、従前の土地評価を一律に三・〇二パーセント増やしており、従前の土地(一)について評価で六・三二平方メートル分(公簿面積二〇九・三八平方メートル×〇・〇三〇二)を加えている事実が認められる。
このように差積が僅少で、しかも全部についてではないにしても、差積について清算金の交付により不利益が補償されている場合、清算金決定処分の是正は別として、換地処分自体にはこれを取消すに値する違法はないというべきである。
六 請求原因6について判断する。
被告主張3の事実は原告において明らかに争わないから自白したものとみなすべきところ、原告は、被告が清算単価を昭和三四年九月を基準として定めたことを非難し、本件換地処分時又はこれに近接した時点を右基準とすべきである旨主張する。
そして、昭和三四年から本件換地処分が行れた同四六年までの間に全国的に土地価格が高騰したことは公知の事実であるから、右基準時を本件換地処分時又はこれに近接した時点に設定した場合、清算交付金及び徴収金とも増額し、その差額において受取勘定となる原告にとつて利益となる(原告は従前地(一)に対する換地処分に伴う清算徴収金が過大である旨主張するが、前記基準時を繰り下げることは徴収金の関係では原告にとつて不利益となる)ことは明らかである。
清算金は、施行地区内の宅地について換地処分の結果生ずる不公平を過不足なく公平ならしめるため、施行者が過不足額を不当に利得した者から徴収し、損失を受けた者に交付し、金銭で清算しようとする制度であるところからすれば、従前の土地及び換地の評価は換地処分の時を基準とすべきものといい得るとしても、それは技術的にも手続的にも(土地区画整理法八七条は換地計画樹立の段階で清算金の明細を決定することを要求している)不可能というべきである。他方、換地処分に先立つて仮換地の指定がなされ且つそれがそのまま換地に移行する場合、実質的には既に換地処分があつたのと異ならないから、そのような場合は、むしろ、仮換地が換地に移行することが確実となり、換地の評価も可能となる土地区画整理事業の工事がほぼ完成した時点をもつて土地評価算定の基準時とすることの方が相当といい得る。
従つて、本件において、右工事の概成時である昭和三四年九月を前記基準時としたことは違法でないというべきである。
七 そうすると、従前の土地(二)についての清算金決定処分に違法な点はみあたらないが、従前の土地(一)についての清算金決定処分は従前の土地(一)の評価額決定につき実測面積ではなく公簿面積で算定しており、何ら公簿面積と実測面積の差積につき考慮しておらず、右差積について考慮しない限り違法といわざるをえない。けだし、従前の土地の実測面積が公簿面積より広い場合、右実測面積を全く考慮せず清算金決定処分をなすことは結局公簿面積と実測面積の差積を何らの補償なくして取り上げることになり、公簿面積と実測面積に差のない者に比しても不公平だからである。
そこで従前の土地(一)の地積を実測面積二一八・四〇平方メートルとして計算方法について前記路線価式評価方法で従前の土地(一)の評価額を計算すると次のようになる。(ただし、実測計算であるから測量増は考慮しない。)
(イ)地 300個×0.921×129.29=35,723個
(ロ)地 300個×0.932×89.11=24,915個
35,723個+24,915個=60,638個
60,638個÷218.4=278個
278個×218.4=60,715個
13円×60,715個=789,295円
そして本件換地(一)の評価額は九七万一〇〇九円であるから、従前の土地(一)の評価額七八万九二九五円との差一八万一七一四円が従前の土地(一)についての徴収金となる。
従つて、従前の土地(一)に対する被告の徴収金を一九万一四六四円とする清算金決定処分は一八万一七一四円を超える部分につき違法ということになり、また徴収金は可分であるからその部分の取消をもつて足りるというべきである。
八 結論
従つて、原告の本訴請求のうち、従前の土地(一)に対する清算金決定処分中、徴収金一九万一四六四円のうち一八万一七一四円を超える部分の取消を求める部分は理由があるから認容し、その余の請求は失当であるから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条但書を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 豊島利夫 川原誠 徳永幸蔵)
別紙目録(一)、(二)、同図面(一)~(四)<省略>